5年計画five-year plan

若手研究者の支援と育成を目指して

 2014年度から始まった新たな5ヶ年計画の基幹テーマとして「細胞ストレスに起因するマトリックスの動的変容と修復の分子機構」を掲げている。すなわち、臓器線維症や動脈粥状硬化症など慢性炎症に起因する組織リモデリングは全身の諸臓器に認められ、今や総死亡数では癌患者数を凌ぐと言われている。これらの疾患における共通病態として、細胞外マトリックスの質的ならびに量的異常が挙げられる。細胞外マトリックスは、組織や臓器形態の保持のみならず、細胞機能にも大きな影響を及ぼすが、その変容と修復の機序について系統的研究を行う施設は皆無である。そこで、内的(加齢、酸化ストレス、代謝異常)あるいは外的(感染、環境中有害物質、薬剤、加重)な細胞ストレスが加わった際の生体の防御反応としての炎症と組織修復、さらにそれが破綻することで生じる臓器線維症や組織変性疾患について臓器横断的な研究拠点を形成し、その病態解明により診断・予防・治療法の開発に繋げることを目的とし、2017年度も一貫してこの病態解明に総医研の所員一同の総力を結集する。
 

2014年度
 コアプロジェクトとして「ミトコンドリア由来の酸化ストレスによる肝線維化促進機序の解明」を選択した。酸化ストレスは臓器の線維化を進展させると言われるが、その詳細な機序は不明であり、酸化ストレスを標的とする抗線維化治療も確立されていない。本研究では、所員の稲垣が開発したI 型コラーゲン・プロモーターをEGFPないしルシフェラーゼに連結したレポーターマウス(Gastroenterology 2009)を用いて、ミトコンドリア由来の酸化ストレスあるいは機能性脂質の過酸化が肝線維化を促進する機序の解明に重点を置き現在研究を遂行している。
2015年度
 コアプロジェクトとして「ポドサイト傷害モデルを用いた糸球体硬化症の病態解明」を選択する。腎糸球体傷害機序の解明を目的とし、所員の松阪が確立したポドサイト傷害モデル(Hypertension 2010)を用い、腎線維化病態におけるレニン・アンギオテンシン系の関与についての検討に重点を置く。
2016年度
 コアプロジェクトとして「下肢虚血モデルにおける血管リモデリングの病態解明」を選択する。下肢虚血モデルマウスを用いて、末梢虚血組織における血管内皮前駆細胞や他の血球系細胞の集積と機能を解析する。この病態に対して、所員の浅原自らが世界で初めて分離・同定した血管内皮前駆細胞 (Science 1997)やそれから派生した再生アソシエイト細胞 (Diabetes 2013)を移植して、その効果の検証に重点を置く。
2017年度
 コアプロジェクトとして「リスクアリルを導入した脱毛モデルマウスによる円形脱毛症発症機序の解明」を選定する。岡講師のグループは2016年に円形脱毛症の原因遺伝子を同定した。ヒトで同定された遺伝子異常をマウスに導入することによりヒトと同様の脱毛症が発症したことから、この遺伝子異常が円形脱毛症の原因であることを見事に証明した。この成果は多くの患者を悩ませる脱毛症の画期的な治療法開発に結実することが期待される。
2018年度
 コアプロジェクトとして「神経変性疾患の発症・進行に関わる脳内制御分子の同定」を選択する。多くの神経変性疾患は中高年以降に発症し、最終的に死に至る難病であるが、特定の神経細胞が進行性に変性していく機序は明らかにされていない。所員の秦野らが作製した筋萎縮性側索硬化症のモデルマウス (PLoS ONE 2010)や患者より樹立した疾患iPS細胞を用いて包括的オミックス解析を行い、恒常性破綻の分子機序の特定に重点を置く。

 以上のごとく5年計画で「細胞ストレスに起因するマトリックスの動的変容と修復機構の解明」を達成すべく、毎年各コアプロジェクトを設けるが、実際には3年間ずつ重複して各々のコアプロジェクトを遂行し、査読付き論文1編以上を目標とする。この計画に則って、細胞外マトリックスの動的変容と修復異常に起因する全身諸臓器の難治疾患に対する系統的研究を展開するとともに、多くの大学院生や奨励研究員、特定研究員の積極的参加により、この分野における若手研究者の育成に努める。